生地の森は、「生地の森らしい」とか「他にはない風合いが好き」また「他の店と比べると値段が高い」とさまざまなご意見やご感想をいただきます。そこで、皆さまにより親しみと関心を持っていただくために、生地の森のオリジナル生地誕生における秘話や、生地作りにまつわる裏側を全5回に通してご紹介していきます。
今回が全5回の最終回となります。最後までお読み頂ければ嬉しいです。
ファッション業界で使われる布生地の99パーセントが、大量生産された輸入ものの生地だということを皆さんはご存じですか? それらの生地は、コスト優位性と引き換えに素材本来の表情と風合いを失い、ファッションにとって一番重要な要素を捨ててしまったのです。
「味わいのあるいい生地を作りたい」
この強い気持ちに共感してくれたのは、遠州浜松の職人さんたちでした。織り・染め・風合い出し…すべてを職人の手仕事で作り出した生地に手を当てれば、ファッションとは「素材ありき」であることを再認識することができます。 職人たちの意気込みと確かな技術を、一枚の布地にのせて世界に発信する、それが生地の森です。
1990年代後期の古着ブームを背景に、色落ちを楽しむ生地として生み出された「リュードバック加工(Rudeback®)」
生地の森である理由(全5回) 第3回 「まるでデニムのような表面変化が可能な「リュードバック加工」」
しかし、それを追うかのように、市場には(技術や品質の違いこそあれど)類似するコンセプトを謳った生地が出回りはじめました。やがて、わたしたちは自然素材を生かした生地づくりのフロントランナーとして、さらに革新的な生地の開発を目指します。
生地製造において「タブー」と目されていた製法 「生機(キバタ)に一切の下処理をせず、ダイレクトに染め上げる」、そんな業界の非常識にさえ挑戦し、革新的な新シリーズ 「ナチュラルダイド (natural dyed)」を生み出すことに成功したのは、2000年代前期のことでした。
この製法を可能にするためには、職人たちの技術と経験はもちろん、日ごとに異なる気温・湿度・作柄の変化において、手作業で微調整を行うためのアナログな環境が必要でした。 しかし実はその環境こそ、わたしたちが保有する強みでもあったのです。 こうして、不可能だと思われていた「ナチュラルダイド (natural dyed)」の製造が実現しました。
「ナチュラルダイド (natural dyed)」は、生地の森から初めて世に出したシリーズ「ヴィンテージ (Vintage)」と同様、生地を日中夜寝かせることによって少しずつ色を染めています。
生地の森である理由(全5回) 第2回 生地の森 はじめてのオリジナル生地「ヴィンテージ」
しかし、「ナチュラルダイド (natural dyed)」は生機(キバタ)を薬品等による下処理を行うことなく、ダイレクトに染めていきます。そのため素材が本来がもっている表情を殺さずに、面感や風合いを出しやすくしています。
しかも「ナチュラルダイド (natural dyed)」の製法は、天然素材のリネンの素材でこそ発揮する、リネンに特化した製法になったのです。だからこそ、生地の森がリネンのフラックス原料の良質なものにこだわるのは、まさに「素材ありき」。 良質な素材の味を最大限に引き出してこそ、表情が繊細に表れて、風合い豊かな質感を表現します。
「ナチュラルダイド(natural dyed)」の製法で作っている生地をご紹介します。「ベルギーリネン×ナチュラルダイド」のシリーズと、「リネンウール×ナチュラルダイド」のシリーズがございます。
IN50330
洗いこまれたベルギーリネンローン60番手
ベルギー産フラックス原料の良質なリネン糸に厳選し、素材の持ち味を余すことなく、ありのままの風合いに仕上げております。 60番手の細番手の糸ほど繊細な表情が生まれ、ふくふくとした細かいシボがその証です。 じっくりと仕上げていくからこそ、くたっとした肌馴染みの良い落ち感が生まれます。 リネン本来の上質感をぜひ堪能してください。
IN50561
洗いこまれたベルギーリネンウール40番手
ベルギー産フラックス原料の良質なリネン糸に、ラミーリネンウールの混紡糸がミックスされ、ウール感を余すことなく逃さぬように低温でじっくり時間をかけて仕上げていきます。ウールの混率は僅か10%でも、微細なウールの起毛感が表面に現れるのはその証。ふっくら柔らかく落ち感の美しい質感に至福のぬくもりを感じていただけます。
生地の森でも「洗いこまれた…」というネーミングでお馴染みの定番商品ですが、この「洗いこまれた…」にはどんな意味があるかご存じですか?
ナチュラルダイド natural dyedの「IN50330 洗いこまれたベルギーリネンローン60番手」を初めて出した頃、その当時のリネン生地は、フラットできれいな面が一般的で、ナチュラルなツラ感をしたリネン生地は珍しかったのです。
当初は「なんだか何回も洗った生地みたい」とか「使い古しなの?」などと戸惑う声も聞こえてきました。それならみんなが連想したままを名前にしようと「まるで洗って使い込んだような…」という意味を込めて「洗いこまれた…」と名付けました。
世に出した後まもなくして、市場には(技術や品質の違いこそあれど)類似する生地も出回り、「洗いこまれた…」とかかれた私たちの生地は、「洗ってあるから水通しはしなくてもよい?」とか「水通し済みの生地」と誤解を受けたり、ワッシャー加工で洗いをかけてシワを付けた生地と同類のものと勘違いされたりもしましたが、ここでその違いをお分かりいただけたのではないでしょうか。
私たちは、心地よさにこだわった生地を求めている皆様に『生地を届ける』ことだけではありません。 繊維産業を巡る状況や、産地の職人の想い、そして弊社の新たな挑戦や取り組みなどを発信することにより、 天然素材を用いた生地の魅力や可能性を、より多くの方に周知していただくこと。これも大切な使命と捉えています。
誰よりも真面目に天然素材と向かい合って生まれた「生地の森の生地」を通じて、あなたのモノづくり体験が、かけがえのない宝物になりますように願っております。
世の中にはない風合いの生地を老舗染職人によって生み出していくきっかけになったお話
綿の風合いを最大限活かし、ヴィンテージ感を楽しむ「ヴィンテージ加工」
まるでデニムのような表面変化を楽しむ「リュードバック加工」
リアルなシワや、染めのムラ、よりリアルな古着感を楽しむ「ダメージダイド&ウォッシュ加工」
リネン生地の持つふっくらしなやかな柔らかさを引き出す独自の製法「ナチュラルダイド加工」